2020年のコロナ禍初期、政府は全国民に一律10万円を給付する「特別定額給付金」を実施しました。当時はスピードと公平性が重視され、国民生活の下支えとして一定の効果があったと評価されています。
ところが、それ以降、経済状況が厳しくなっても再び全国民への定額給付が行われることはありませんでした。世論の中には「なぜ今こそ給付をしないのか?」という疑問の声もあります。
本記事では、政府が定額給付金の再支給に消極的な背景を、政治的・経済的な視点から解説し、私たち一般家庭がどう対応すべきかについても考えていきます。
一律給付は「政治的うまみ」がない?
まず、国民全体に現金をばらまく政策は、一見「国民に優しい」ように思えますが、実は政治家にとって大きなメリットはありません。
理由はシンプルで、「誰に感謝されるかわからない」からです。
例えば、特定の産業支援や補助金政策であれば、その恩恵を受けた企業や団体から政治的な見返り(=票や支持)を期待できます。一方、一律の現金給付は「使い道も受益者もバラバラ」であり、個々の政治家にとってはリターンが不明確です。
加えて、2020年当時の特別定額給付金では、12兆円以上の巨額予算が投入され、配布に伴う事務コストも1,400億円超と膨大でした。こうした“費用対効果”の観点からも、政治的に評価されにくいのが実情です。
給付しても消費に回らない?政府が抱えるジレンマ
財政当局、特に財務省が再給付に否定的な理由の一つは、「消費喚起につながりにくい」という点です。
2020年当時の日本銀行の「資金循環統計」によれば、給付金が配られた直後、家計の現預金残高は過去最高の1,031兆円に達しました。その後も2020年9月には1,034兆円とさらに増加。
つまり、現金給付の多くは「貯蓄」に回され、「消費」という経済活動にはつながりにくかったというのが財務省の認識です。麻生元財務相も、記者会見で再給付に否定的な見解を示し、「生活困窮世帯への支援は検討しても、一律給付はあり得ない」と明言しました。
これは政府にとって、支出に見合った経済的なリターンがない、いわば“無駄打ち”とみなされている可能性があります。
コロナ禍の影響は「局所的」になってきた
もう一つ、政府が再給付に慎重なのは、「困っている人の範囲が狭まってきている」との見方があるからです。
初期の緊急事態宣言下では、ほぼすべての業種・人々が打撃を受けました。しかし、2023年以降は業種による明暗がはっきり分かれるようになりました。
たとえば…
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製造業やIT業界はコロナ後の需要増で業績好調
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一方で、観光・飲食・イベント業などは依然として厳しい状態
つまり、「全国民一律に配るのではなく、困っている人を対象に絞った方が合理的だ」という考え方が政府内に強くあるのです。
世論の「納得感」が得られにくい再給付
2020年に一律給付を実施した背景には、「スピード重視」と「国民の不安解消」がありました。しかし、現在はそうした“緊急性”が見えづらくなっています。
物価上昇や可処分所得の減少など、じわじわと家計に影響を与えている現状に対し、「ピンポイントではなく、一律に支給するべき」という声も根強い一方で、
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「本当に困っている人だけに支給すべき」
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「高齢者や富裕層にまで配るのはおかしい」
という反論も少なくありません。結果として、再給付に対する政治的な“納得感”が得られにくく、政策として進みにくいのが実情です。
財政健全化との綱引き
もう一つ見逃せない要素は「財政再建のプレッシャー」です。
日本の政府債務残高は、GDP比で200%を超える水準に達しており、先進国の中でも突出しています。コロナ対応で一時的に積極財政が許容されていたものの、現在は増税(例えば消費税率の見直しや、金融所得課税)などを見据えた“引き締めムード”にあります。
つまり、再給付を行うことで、財政再建の道筋がさらに遠のくとの懸念もあるのです。
では、私たちはどうするべきか?
政府がすぐに再給付を実施する可能性は低く、個人としては「生活防衛力の強化」が鍵となります。
たとえば、
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固定費の見直し(家賃、保険、通信費)
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節税対策(NISA、iDeCoの活用)
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貯蓄と投資のバランス見直し
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キャッシュレスの活用でポイント還元
といった、日常レベルでの「守りの家計管理」がこれまで以上に求められるでしょう。
まとめ:再給付を待たず、今できる備えを
「なぜ定額給付金を出さないのか?」という疑問には、政治・経済・財政といった複数の要素が絡んでいます。
政府としては、
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政治的うまみが薄い
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消費喚起の効果が薄い
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支援の対象を絞りたい
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財政健全化を重視したい
という背景があり、再給付に踏み切れない現状があります。
だからこそ、私たち個人は「次の給付」を待つのではなく、自らの生活と家計を見直すことが最も現実的な対応です。
不確実な時代に必要なのは、“自分の財布を守る力”なのかもしれません。
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