2020年3月。世界は新型コロナウイルスの猛威に揺れ、各国の経済活動が一斉にストップしました。株式市場は急落し、私たちのような一般投資家も、日々の値動きに一喜一憂していた記憶がまだ生々しく残っています。
そんな中、日本銀行(日銀)は緊急の金融政策決定会合を開き、ETF(上場投資信託)の買い入れ額を大幅に拡大するという異例の措置を取りました。
それから5年。私たちは今、あのときの決断をどう評価すべきなのでしょうか?
本記事では、2025年現在の視点から2020年の緊急金融緩和とその功罪について、整理してみたいと思います。
1. 2020年3月、日銀が緊急対応を決めた背景
2020年3月16日、日本銀行は金融政策決定会合を前倒しで開催し、ETFの買い入れ額を年6兆円から12兆円へ倍増する追加緩和策を発表しました。
その背景には、新型コロナの世界的拡大により、日経平均株価が連日暴落していたという深刻な状況がありました。
市場は混乱し、企業業績も急速に悪化。景気の落ち込みを防ぐために、金融市場の安定を図ることが喫緊の課題となっていたのです。
2. 金利を下げられない日本銀行の苦しい選択
本来であれば、金融緩和の王道は「政策金利の引き下げ」です。
しかし、当時の日本はすでにマイナス金利政策を導入しており、これ以上の金利引き下げの余地がほぼありませんでした。
つまり、“手詰まり”状態の中で唯一残された選択肢が、「ETFの買い入れ増額」だったのです。
この政策は、言い換えれば「株式市場への直接介入」に他なりません。
中央銀行が市場に資金を注入し、株価の下支えをすることで、投資家の動揺を鎮めようという狙いがありました。
3. 市場の反応は冷ややかだった
日銀の緊急緩和が報道された当日、2020年3月16日の日経平均株価は−429.01円安(終値17,002.04円)と下落しました。
つまり、市場はこの政策を歓迎したとは言いがたい反応を見せたのです。
理由は明確です。
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外国人投資家は日本市場から資金を引き上げていた
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ETF買いの効果は限定的と見なされていた
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そもそも「実体経済」が止まっていた
つまり、「金融市場の安定化策」だけでは限界があることを市場は見抜いていたのです。
4. アメリカFRBとの違い:利下げの余地とスピード感
この前日、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、1%の緊急利下げを行い、政策金利を0〜0.25%へと一気に引き下げました。
この動きにより、FRBは一気に「ゼロ金利政策」に突入することになります。
アメリカと日本の最大の違いは、金利政策に“余白”があったかどうか。
FRBはまだ利下げの余地があったために、大胆な政策を打てましたが、日銀はすでに余地がなく、ETF買いという「サブ的手段」に頼るしかなかった。
ここに、当時の日本の金融政策の限界が垣間見えました。
5. コロナの影響が不動産業界を直撃した現場
金融政策の話から少し視点を移すと、実体経済への影響はさらに深刻でした。
たとえば、不動産業界では「中国からの部品供給がストップし、住宅設備が納品されない」という問題が起きていました。
中でも話題になったのは「トイレが納品されないために住宅の引き渡しができない」という事態。
これにより、施工業者は工事が終わっても売上計上ができず、資金繰りが悪化するケースが発生しました。
政府はこの事態を受けて、「未設置状態での完了検査」を一時的に認める特例措置を取りますが、それでも混乱は完全には収まりませんでした。
6. 中小企業に迫る資金ショックの現実
コロナによって最も苦しんだのは、中小企業や零細事業者です。
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部材不足による納品遅れ
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契約条件の不利(下請け構造)
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資金繰りの悪化と黒字倒産のリスク
特に工務店などの中間業者は、施工が完了しても報酬が得られず、売掛金が入らないまま人件費や材料費だけが先行して出ていくという、まさに“資金ショック”に直面しました。
このような状況で求められたのは、金融緩和だけではなく「現場への直接支援」でした。
7. 2025年現在の視点から振り返る:あの政策の功と罪
2025年の今、日銀はETF買いの縮小や保有資産の整理についても議論を始めています。
ゼロ金利政策も出口に向かい、ようやく正常化の兆しが見え始めたところです。
では、2020年のあの政策は意味がなかったのか?
一概には言えません。
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一時的には投資家の心理安定に寄与した
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株式市場の“極端な崩壊”を防ぐ役割を果たした
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しかし、中長期的には市場のゆがみや出口の難しさを残した
つまり、「即効性はあったが、後遺症が残った」と言えるのではないでしょうか。
8. 今後に活かすべき「教訓」とは?
あの経験から得られた教訓は、次のようなものです。
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中央銀行単独では経済は救えない
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金融緩和と同時に、現場への財政支援と実行力が必要
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危機に備えた政策“余地”を普段から持っておくこと
そして、私たち個人投資家にとっても、あの混乱は学びの場でした。
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リスクは想像よりも早く・深く訪れる
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株価だけでなく「実体経済」に目を向ける重要性
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安定収入と生活防衛資金の確保の大切さ
まとめ|日銀のETF買いから5年。投資家が得たものとは
2020年の春、私たちは不安と混乱の中で、国の政策や中央銀行の動きを注視していました。
あれから5年が経ち、状況は落ち着きを取り戻しつつあります。
日銀の緊急対応が正しかったかどうかは、今後さらに議論が続くでしょう。
しかし、少なくともあのとき、市場を下支えする覚悟とスピードを示したことには一定の意味があったと私は思っています。
投資家として、生活者として、これからの時代に必要なのは、制度や国に頼り切らない“自分の軸”を持つことではないでしょうか。
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