雑記

「平均貯蓄額」は嘘じゃない?720万円と1,189万円の違い

「日本人の平均貯蓄額って、結局いくらなの?」
ネットで調べると、720万円という数字もあれば、1,189万円という数字も出てくる。さらに平均値だと1,900万円台という数字まで見えて、正直「どれが本当なの?」と感じる人は多いはずです。

結論から言うと、どれも“嘘”ではありません。
ただし、見ている統計が違う。だから答えが違う。
ここを整理できるだけで、お金のニュースに振り回されにくくなります。

720万円と1,189万円は、そもそも同じ調査ではない

まず、よく混同される2つの数字を分けて考えます。

720万円は、J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年・二人以上世帯)」で示される金融資産保有額の中央値です。あわせて平均値は1,940万円とされています。
この調査はインターネットモニター方式で、二人以上世帯5,000件を対象に実施されています。
また、この調査でいう「金融資産」は、預貯金・株式・投信などを含みますが、預貯金のうち日常の出し入れ用は含めない定義です。さらに2021年に調査手法・対象の見直しが入っています。

一方、1,189万円は総務省「家計調査(貯蓄・負債編)2024年平均結果(二人以上の世帯)」で示される、貯蓄保有世帯の中央値です。
同じ資料では平均値が1,984万円、さらに「貯蓄現在高が0の世帯を含めた中央値(参考値)」は1,099万円と明記されています。

つまり、

  • 720万円:J-FLECの「金融資産」中央値

  • 1,189万円:総務省家計調査の「貯蓄保有世帯」中央値

  • 1,099万円:同じ総務省データで「0円世帯も含む」中央値(参考値)

この3つは、定義も集計条件も違うので、並べて「どちらが嘘か」を争う性質の数字ではありません。

「平均が高すぎる」は、統計の欠陥ではなく“分布の形”の問題

もう一つ、モヤモヤの原因は平均値です。
「平均1,984万円って、実感と違いすぎる」と感じるのは自然です。

実際、総務省の資料自体が、貯蓄現在高は少ない階級に偏った分布で、平均値(1,984万円)を下回る世帯が約3分の2(67.0%)と示しています。
つまり平均値は、一部の高額保有世帯に引き上げられやすい。これは統計の“間違い”ではなく、右に長い分布で必ず起きる現象です。

だから家計の現実感に近い指標として中央値を見る、というのが基本になります。
J-FLECの報告でも「平均値の欠点を補うため中央値を使う」趣旨が明示されています。

「統計は当てにならない?」への答え

私の考えはシンプルです。
統計は当てにならないのではなく、読み方を間違えると当てにならなくなる。

読み間違いの典型

  1. 別調査の数字をそのまま比較する

  2. 平均だけ見て中央値を見ない

  3. 「0円世帯を含むか」を確認しない

  4. 調査方式や定義を読まない

総務省の家計調査は、推計式や補正、標本誤差率まで公開しており、2024年平均で二人以上世帯の貯蓄現在高の標準誤差率は全国1.4%(負債2.0%)と記されています。
一方で、家計調査の中央値は原則として0円世帯を含めない扱い、貯蓄残高は調査開始3か月目の1日現在を使うなど、独自ルールもあります。
この“前提”を知らずに数字だけ見ると、誤解が生まれます。

50代が統計を家計に生かす、現実的な使い方

ここからは「知って終わり」にしないための実践編です。
数字の真偽より、生活を良くする行動に変えた人から家計は整っていきます。

1. 比較対象を「全国平均」から「去年の自分」に変える

全国平均との差は、属性の違いでいくらでもズレます。
世帯人数、年齢、持ち家か賃貸か、退職金の有無で条件が違うからです。
まずは「前年同月比」「前年末比」で自分の純資産が増えたかを確認するほうが、実務的には価値があります。

2. 指標を3つに絞る

  • 生活防衛資金(生活費の何か月分か)

  • 年間貯蓄率(手取りに対して何%残せたか)

  • 投資継続率(暴落時も積立を止めなかったか)

統計の平均値を追いかけるより、この3つを毎月点検するほうが再現性が高いです。

3. 「中央値付近」を現実目標として使う

いきなり“平均超え”を目標にすると、リスクを取りすぎやすい。
まずは中央値帯を一つの目安に置き、家計改善と積立継続で段階的に上げる。
このほうが心理的にも続きやすく、結果として資産形成がぶれにくくなります。

4. 情報源を固定する

毎回違う媒体の数字を拾うと、判断軸がブレます。
「総務省の家計調査」「J-FLECの同一定点調査」のように参照先を固定し、同じ定義で追いかけるのがコツです。

5. 貯蓄額だけで安心しない(負債とキャッシュフローも見る)

貯蓄が増えていても、毎月の収支が赤字なら将来の持続性は弱くなります。
住宅費、保険料、通信費などの固定費が上がっていないか、借入返済比率が重くなっていないかを合わせて確認しましょう。
「資産残高」と「毎月の黒字化」を同時に見ると、統計の数字を自分の生活に落とし込みやすくなります。

すぐできる家計ルーチン(統計を行動に変える)

最後に、数字を“知識”で終わらせないための簡単ルーチンを置いておきます。
月末に10分だけ、①総資産、②現金残高、③今月の積立額、④固定費の増減をメモする。
この4点を3か月続けるだけで、統計ニュースより先に自分の家計の異変に気づけます。
統計は未来を当てる道具ではなく、家計の現在地を確かめるコンパス。そう考えると、数字へのストレスがぐっと減ります。

なお、数字が気になるときほどSNSの断片情報ではなく、一次統計の注記まで読む習慣を持つのがおすすめです。
注記を1行読むだけで、誤解の9割は防げます。資産形成は情報戦ではなく、解釈戦です。

まとめ:数字がズレるのは、嘘だからではなく、前提が違うから

720万円も1,189万円も、どちらも本当です。
ただし、同じ問いへの同じ答えではない。

  • J-FLECの720万円は、2025年の二人以上世帯における金融資産の中央値

  • 総務省の1,189万円は、2024年の二人以上世帯・貯蓄保有世帯の中央値

  • さらに0円世帯を含めると、総務省ベースで1,099万円

この違いを押さえるだけで、統計は「不信の対象」から「意思決定の道具」に変わります。

家計に必要なのは、派手な数字ではなく、正しい読み方です。
平均に振り回されず、中央値と分布で現実を見る。
この姿勢が、遠回りに見えていちばん堅実な資産形成につながると私は考えています。

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