インフレ税という言葉を聞くと、「また国が国民から取る話か」と身構える人も多いと思います。でも正体は、法律で決まる税金ではありません。物価が上がることで、現金や預金など“名目で固定されたお金”の購買力が目減りする。この目減り分が、じわじわと家計の負担になるので「税」にたとえられます。
私は賃貸暮らしの50代平社員。妻はパート、子どもは高校生と中学生です。教育費や日々の買い物で物価高を感じるほど、「現金を持っているだけで損をしている気がする」と思う瞬間が増えました。
ここからが本題です。インフレ税は、誰かが損をする一方で、誰かが得をする「再配分」の仕組みです。得をしやすいのが、①お金の発行体(政府・中央銀行)と、②借り手(債務者)。逆に損をしやすいのが、現金・預金のように“お金を貸している側”です。
インフレ税で得をするのは「負債側」
インフレで起きるのは、お金の価値の目減りです。実質価値はだいたい「名目額÷(1+インフレ率)^年数」で考えられます。
たとえば100万円を現金のまま置き、インフレ率が年3%で3年続くと、実質的には100万円÷1.03^3≒91.5万円の買い物しかできなくなります。差の約8.5万円が、目に見えない“支払い”です。
再配分をざっくり矢印で書くと、こうなります。
・現金や低金利預金を多く持つ人(貸し手)→目減りして不利
・固定金利で借りている人(借り手)→返済の実質負担が軽くなり有利
・国(国債の発行体)→名目の負債が実質で軽くなり有利
つまり、インフレとは「資産側より負債側が得をする」イベントです。家計目線だと腹落ちしにくいのですが、ここを押さえると、インフレのニュースがただの物価高ではなく“お金の立ち位置の入れ替え”に見えてきます。
ここで大事なのは、目減りした分が空中に消えるのではなく、「負債の実質負担を軽くする」方向に働くことです。つまり、借りている側、負債を抱えている側が有利になりやすい。
得する① 発行体(政府・中央銀行):国の借金が軽くなる
国は巨額の国債という“名目の負債”を抱えています。国債は基本的に円建てで、返す額は名目で固定されます。だからインフレが進むほど、返すお金の実質価値は小さくなります。
イメージしやすいように単純化します。もし国の負債が100兆円あって、インフレ率2%が5年続くと、実質価値は1/1.02^5≒0.905倍。100兆円は、実質で約90.5兆円相当まで目減りします。約9.5兆円分、返済の重さが軽くなる計算です。
ここでポイントは、「緩やかなインフレを目標にする」という発想そのものが、発行体にとって都合がいい面を持つことです。日本でも中央銀行は消費者物価の前年比上昇率2%を『物価安定の目標』として掲げています。ゼロインフレではなく、少しずつ物価が上がる世界を前提にする以上、現金の価値がじわじわ削れるのは避けにくい。だから家計は、名目金利だけでなく“実質で増えるか”を意識する必要があります。
さらに中央銀行には「通貨発行益(シニョリッジ)」があります。新しく供給されたお金は、最初に受け取って使える側ほど得をしやすい。逆に、後から価格上昇だけを受け取る側(現金を持っている家計など)は損をしやすい。ここにも再配分が起きます。
もう少し踏み込むと、政府が得をしやすいルートは大きく2つあります。
(1) 国債という名目債務の実質圧縮:インフレで「返す円」の価値が下がる。
(2) 名目の税収が伸びやすい:物価が上がると消費税は金額ベースで増えやすい。賃上げが起きると所得税も、控除や税率区分がすぐには動かないため、実質的に負担が増えやすい(いわゆるブラケット・クリープ)。
もちろん、インフレは家計に痛みを伴います。金利や景気への副作用も出ます。それでも「国の財布が楽になりやすい構造」があるのは事実で、ここが“インフレ税”と言われるゆえんです。
もちろん現実はもっと複雑で、金利上昇や景気への影響も絡みます。ただ、「インフレが続くほど、発行体の名目負債が相対的に軽くなる」という大枠は押さえておくと、ニュースの見え方が変わります。
得する② 借り手(債務者):固定返済はインフレで楽になる
借り手が得をするのも同じ理屈です。借金の返済額が名目で固定されていると、物価や賃金が上がるほど、返済の“実質負担”は下がります。
たとえば毎月3万円の固定返済があるとします。インフレで物価も賃金も年2〜3%ずつ上がっていくなら、家計にとって「3万円の重さ」は年々軽くなります。給料が同じでも、物価だけ上がれば苦しいのですが、賃金が追いつく局面では、固定返済は相対的に楽になる。
数字で見るともっと分かりやすいです。例えば年収500万円で年間返済36万円(毎月3万円)なら、返済負担は7.2%です。インフレと賃上げが年3%で3年続いて年収が約546万円になれば、返済は同じ36万円でも負担は約6.6%に下がります。借金の額が減ったわけではないのに、家計の圧迫感が薄れる。これが「借り手が得をする」と言われる感覚です。
ただし注意点もあります。変動金利の借入は、インフレ局面で金利が上がると返済額も増えやすい。新規の借入は、名目の利率や返済期間をよく見ないと、むしろ逆風になります。「借り手が得」といっても、“固定で借りていた人が得をしやすい”くらいに理解しておくのが安全です。
損する側:現金・低金利預金という「貸し手」
一方で損をしやすいのは、現金や低金利の預金、そして固定利付の債券などです。これらは名目の増え方が小さいのに、物価だけが上がると実質価値が削られます。
言い換えると、預金者は銀行にお金を貸している立場です。インフレで実質金利がマイナスになると、貸し手である預金者が目減りを引き受け、借り手側が相対的に楽になります。インフレ税が「見えない徴収」と言われるのは、ここが痛いからです。
私も「現金が多いほど安心」と思っていた時期がありました。数字だけ見れば確かに安心です。でもインフレが続くと、その安心のために購買力を差し出していることになります。だから私は、必要な現金は確保しつつ、余剰は長期投資に回す“自分なりの線”を決めるようにしました。
そして50代以降は、時間が味方しにくくなるぶん、ダメージが体感として出やすい。働いているうちにインフレが続くと、給料が追いつかない人ほど苦しくなる。だからこそ、「現金をどれだけ持つか」は投資以前に家計戦略になります。
50代の家計での対策:現金は目的別、余剰は長期へ
とはいえ、現金をゼロにするのは現実的ではありません。私も教育費や急な出費があるので、生活防衛資金は現金で確保しています。大事なのは“目的別”に分けて、必要以上に抱えすぎないことだと思っています。
私の考え方は「長期・分散・低コスト」。新NISAを中心に、世界株のインデックスをコツコツ積み立てる。インフレで現金が目減りするなら、長期では企業の利益成長に乗るほうが理にかなう、という発想です。
もちろん相場は上下します。だからレバレッジや信用取引は私は避けています。下落時に耐えられない投資は、インフレ対策どころか家計を壊すからです。
もし「インフレが怖い。でも株は怖い」という人は、選択肢を増やすのも手です。短めの債券や、物価に連動するタイプの国債などを検討して、現金一本足を避ける。全部を当てに行くより、“家計が折れない形”を優先したほうが長続きします。
まとめ:インフレは“静かな再配分”だと知っておく
インフレ税の本質は、物価上昇そのものよりも、「誰が得をして、誰が損をするか」という再配分にあります。発行体(政府・中央銀行)や借り手(固定返済の債務者)は得をしやすい。一方で、現金・低金利預金のような“貸し手側”は損をしやすい。
この構図を知っているだけで、ニュースの見方も、家計の守り方も変わります。現金は必要なぶんだけ持つ。余剰は長期で分散する。私はこの基本に戻りながら、FIREではなく「老後の安心」という逃げ切り戦略を淡々と積み上げていきます。
私自身、以前はもう少し積み立てていましたが、50代になって教育費や生活費が増え、積立額は現実に合わせて減らしました。それでも「やめない」ことを優先しています。インフレ局面で一番きついのは、現金比率が高いまま何も動けない状態になることだからです。
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