相続の話題でよく出てくるのが、「遺産の平均は6,140万円/中央値は3,450万円」といった数字です。確かにインパクトは強い。でも、この数字だけを見て「自分もそれくらい相続できる(=老後資金は何とかなる)」と考えるのは危険です。
なぜなら、相続には「遺産総額」と「相続人1人あたり」、さらに「相続税がかかった人だけ」の統計など、数字の“前提”がいくつもあるからです。この記事では、バズりやすい数字をいったん整理して、「結局、1人あたりどれくらい?」を現実的に読み解きます。
結論:相続人1人あたりの平均は“2種類”ある
まず最初に結論です。「1人あたり平均」は、どの母集団を見ているかで大きく変わります。
① 相続税がかかった人たち(課税対象者)に限ると…
国税庁が公表している最新の統計(令和6年分)では、相続税の申告が必要だったケースについて、
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相続税の納税者(相続人)数:361,260人
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課税価格の総額:23兆3,846億円
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申告税額の総額:3兆2,446億円
とされています。ここから単純に割り算すると、
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相続人1人あたりの課税価格(平均):約6,473万円
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相続人1人あたりの相続税額(平均):約898万円
となります。かなり大きい数字ですよね。ですが、これは重要な注意点があります。
これは「相続税がかかった家」だけの平均です。相続税がかからなかったケース(多数派)は入っていません。
② 相続を経験した人のアンケート(民間調査)だと…
一方、MUFG資産形成研究所の調査(相続経験者を対象)では、
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親から相続した財産総額:平均3,273万円/中央値1,600万円
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親(亡くなられた方)が保有していた財産総額:平均6,140万円/中央値3,450万円
という結果が示されています。
この「6,140万円/3,450万円」は“親の遺産総額”なので、相続人が複数いれば当然分け合うことになります。だから、「相続人1人あたり」で見ると平均3,273万円/中央値1,600万円のほうが近い、という読み方になります。
なぜこんなにズレる?3つの落とし穴
ここからが本題です。相続の数字は、次の3点でズレやすいです。
1) 平均は“上振れ”する(中央値のほうが体感に近い)
相続は金額のばらつきが大きいので、少数の高額層が平均を押し上げます。だから「平均○千万円」は派手に見える一方で、実態を見るなら中央値(真ん中)を確認したほうが納得感が出ます。
2) 国税庁の統計は「相続税がかかった家」中心
国税庁の申告事績は、基本的に「相続税額がある申告書」のデータにもとづく統計です。つまり、相続税がかからなかったケースは含まれません。
実際、令和6年分の課税割合(死亡者数に対して申告が必要だった割合)は10.4%。ざっくり言うと、相続税が“かかる家”は約1割です。残り約9割は、相続税の申告が不要なケースが多い、というのが現実です。
3) 「課税価格」は“そのまま受け取った額”ではない
国税庁統計で使われる「課税価格」は、相続財産の価額に加えて、相続時精算課税の適用財産を足し、債務・葬式費用を引き、一定期間の生前贈与を加算したものです。つまり、手取りの現金感覚とはズレます。
1分で目安を出す:相続税がかかるかの簡易判定
「うちは相続税がかかりそう?」をざっくり判定するなら、まずは基礎控除を使うのが一番早いです。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
正味の遺産額(だいたい:預金+有価証券+不動産−借金−葬式費用)が、この基礎控除を超えると、相続税の申告・納税が必要になる可能性が出ます。
例)
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法定相続人2人:4,200万円
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法定相続人3人:4,800万円
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法定相続人4人:5,400万円
ここでの注意点は2つ。
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不動産の評価は「時価っぽい金額」ではなく、相続税評価額で計算する(自宅や土地がある家はブレやすい)
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特例(小規模宅地等の特例など)で大きく下がる場合もある
「ざっくり計算では超えそうだけど、自信がない」という時点で、早めに税理士へ相談しておくと安心です(相談するだけなら無料の窓口もあります)。
50代目線:相続は“あれば助かる”けど、前提にしない
ここは完全に私の考えです。相続って、もらえるかどうかも、いつなのかも、いくらなのかも読めません。だから、老後資金の計画は「相続ゼロでも回る設計」にしておくのが精神衛生上ラクです。
そのうえで、もし相続が入ったら“加点”として使う。例えば、
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生活防衛資金の厚みを増やす
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住宅や介護など、将来の大きな支出に備える
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新NISAの余裕資金として回す(ただし無理なリスクは取らない)
この順番が、現実的だと思っています。
家族で今からできる「相続の準備チェック」
相続で一番しんどいのは、税金よりも「手続き」と「情報不足」です。親が元気なうちに、次だけでも共有できるとかなり違います。
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口座(銀行・証券)の一覧、支店名、名義
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不動産(権利証・固定資産税の通知)
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借金や保証の有無
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生命保険(証券番号、受取人)
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介護や延命治療の希望(これはお金以上に大事)
「相続の話なんてしづらい…」という場合は、“防災の備え”みたいに軽く始めるのがコツです。
よくある誤解:「6,000万円」=現金がドンと入る、ではない
SNSの画像を見て一番起きやすい誤解がこれです。遺産総額が6,000万円だとしても、現金で6,000万円が眠っているとは限りません。
たとえば「自宅(土地建物)5,000万円+預金1,000万円」で遺産総額6,000万円、相続人が配偶者と子2人(計3人)だった場合。
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取り分は単純に1人2,000万円…とはならない(法定相続分や遺言、実際の分け方で変わる)
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不動産は分けにくいので、売る/誰かが住み続ける代わりに他の相続人へ代償金を払う、などの調整が必要
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相続税がかかるケースでは、納税は原則「現金」で行うので、納税資金の手当てが悩みになる
ここまで来ると、相続は“お金の問題”というより“家族のプロジェクト”です。だから私は、数字を見てワクワクするより先に、「うちは不動産が多い?現金が多い?」を確認するほうが現実的だと思っています。
ざっくり試算:あなたの家に当てはめる3ステップ
最後に、家計簿レベルでできる「超ざっくり試算」を置いておきます。
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親の財産を「現預金・有価証券・不動産・その他」に分けてメモ(概算でOK)
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借金・未払い・葬式費用の見込みを引く(ローンやカード残債があれば要注意)
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法定相続人の数を数えて、基礎控除(3,000万円+600万円×人数)と比べる
これで「明らかに基礎控除を超えそう」なら、早めに専門家へ。「微妙」なら、土地の評価や特例の余地で結果が変わるので、なおさら一度見てもらう価値があります。
相続の準備って、早く始めた人が偉いわけではなく、“揉めない仕組み”を作った人が強い。私はそう思っています。
まとめ:見るべきは「中央値」と「基礎控除」
最後に要点だけまとめます。
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「平均6,140万円/中央値3,450万円」は“親の遺産総額”の話
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相続人1人あたりで見ると、民間調査では平均3,273万円/中央値1,600万円
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国税庁統計で相続人1人あたり平均(課税対象者に限る)を見ると、令和6年分で約6,473万円
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相続税がかかる割合は約1割。まずは基礎控除で当たりをつける
相続は、数字を知るだけで不安が少し減ります。逆に、数字を“勘違い”すると人生設計を誤ります。だからこそ、「どの前提の数字か?」を最初に確認して、落ち着いて備えていきましょう。
ここまで相続のことを書きましたが、ちなみに私は相続を受けることは確実にないと言い切れる世帯です。
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