投資

資産形成における“階層の壁” 準富裕層が富裕層に届かない理由

「純金融資産7,000万円台なら、もう少し頑張れば1億円も見えるはず」。そう思いながらも、現実にはなかなか“あと一歩”が届かない──50代サラリーマンの私も、その壁の前でもがいてきました。

野村総合研究所の定義では、世帯の純金融資産が5,000万円以上1億円未満が「準富裕層」、1億円以上5億円未満が「富裕層」です。Inaグループ
数字だけ見ると「あと数千万円なら何とかなる」と感じますが、この“階層の壁”は想像以上に厚いものです。

この記事では、賃貸暮らし・役職なし・50代で総資産7,000万円台の私の実感も交えながら、

  • 準富裕層から富裕層へ届かない心理

  • 届く人と届かない人の家計設計の違い

  • 「無理に1億円を追わない」という現実的な考え方

を整理してみます。

資産階層の定義と「階層の壁」

まずは前提となる資産階層です。野村総研は、世帯の純金融資産(預貯金や株式・投資信託などから負債を引いた額)に応じて、次の5区分を使っています。

  • マス層:3,000万円未満

  • アッパーマス層:3,000万〜5,000万円

  • 準富裕層:5,000万〜1億円

  • 富裕層:1億〜5億円

  • 超富裕層:5億円以上

私のように7,000万円台をうろうろしている世帯は「準富裕層」にあたります。2023年時点で、準富裕層は約400万世帯、富裕層は約150万世帯と推計されています。

数字だけ見れば「準富裕層から富裕層へ“クラス替え”する人も多そうだ」と思えますが、実際にはそう簡単ではありません。5,000万円と1億円の差は、単なる2倍ではなく、仕事・教育費・相続など人生の自由度そのものを変えるため、多くの準富裕層が「壁の手前」で足踏みしてしまうのだと思います。

準富裕層で止まりがちな人の心理

まずは、準富裕層から富裕層に届かない“心のクセ”を整理してみます。どれも、私自身がつい陥りがちなパターンです。

① 「ここまで来たから、もう十分」と緩んでしまう

7,000万円台まで資産が積み上がると、「自分は平均以上だろう」と安心したくなります。その結果、

  • 積立額を少しだけ減らす

  • ボーナスのうち“ご褒美枠”が増える

  • 旅行や外食のグレードを無意識に上げる

といった行動が増えます。どれも悪いことではありませんが、「生活水準の底上げ」がクセになると、そこから先の資産カーブは一気に寝てしまいます。

② 見栄が混じった支出が増える

準富裕層くらいの資産があると、周囲からはそれなりに「余裕がありそう」に見られます。その空気に引きずられて、

  • 住宅・車・教育で“人並み以上”を目指してしまう

  • 職場の付き合いで断れない飲み会やゴルフが増える

  • なんとなくブランド品や高級レストランに手が伸びる

といった、“見栄混じりの支出”がじわじわふくらみます。私は賃貸派で住宅ローンはありませんが、それでも教育費と交際費が増えると、あっという間に毎月のキャッシュフローが苦しくなります。

③ 老後の数字をきちんと計算していない

準富裕層で止まる人の多くは、「老後2,000万円問題」くらいのキーワードは知っていても、

  • 自分の年金見込額

  • 60〜90歳の生活費のざっくり試算

  • 医療・介護に備えた予備資金

までは計算していません。「7,000万円もあれば何とかなるだろう」という“なんとなく安心”のまま、資産形成へのモチベーションを失ってしまうのです。

④ リスクの取り方がちぐはぐ

もう一つのパターンが、リスクの取り方のちぐはぐさです。

  • 7,000万円あるからとレバレッジ投資やFXに手を出す

  • 暴落が怖くて、ほとんどを定期預金に寝かせてしまう

  • 社内預金や社債など「なんとなく安心そう」に偏る

こうなると、「準富裕層」というポジションを活かせません。本来なら、新NISAなどを活用して「長期・分散・低コスト」で堅実に増やすべきところを、感情で動いてしまいやすくなります。

富裕層に近づく人と届かない人、家計の違い

次に、心理ではなく「家計の設計」という観点から違いを見てみます。ここから先は、私が見聞きしてきた範囲での実感も多分に含まれます。

1. 収入の伸ばし方

富裕層に近づく人は、資産運用だけでなく「収入の伸ばし方」が上手です。

  • 本業での昇進・昇給、専門職としてのスキル磨き

  • 副業やセカンドキャリアでの追加収入

  • 配当・分配金など“手離れの良い”所得源の確保

一方、私のように50代平社員で役職がない場合、収入の伸びしろは大きくありません。だからこそ、

  • 残業や転職で無理に年収を追わない代わりに

  • 固定費を抑え、新NISAを中心にコツコツ積み立てる

という形で、「入金力はほどほど、支出を絞って投資に回す」戦略にせざるを得ません。

2. 支出管理の精度

富裕層に近づく人は、お金の使い方に明確な優先順位があります。

  • 生活の基礎部分は質素でも気にしない

  • 教育・健康・時間短縮には惜しまず投資

  • モノより経験、人間関係へのお金を重視

逆に、準富裕層で止まる家計ほど、

  • なんとなく外食が多い

  • 住宅・車・通信費など固定費が重たい

  • ポイントやキャンペーンに釣られて細かい出費が積み上がる

という特徴が目立ちます。賃貸暮らしの私でも、スマホ・サブスク・保険・習い事などをそのまま放置すると、毎月の固定費があっという間に膨らみます。

3. 資産配分とブレないルール

準富裕層から富裕層に近づく人は、「全体のポートフォリオ」を冷静に見ています。

  • 現金:生活費1〜2年分+α

  • 残りは世界株インデックスや優良株で長期運用

  • レバレッジや信用取引には安易に手を出さない

といった、シンプルでブレないルールを守っています。

私も個別株で痛い失敗をしてからは、S&P500や全世界株インデックス中心に「長期・分散・低コスト」を徹底しています。短期の値動きよりも、「20年後の自分と家族の生活」を見据える方が、結果的に資産の伸びが安定すると感じています。

50代サラリーマンの私が決めている3つのこと

では、実際に“階層の壁”を前にした50代サラリーマンとして、私は何を意識しているのか。結論から言うと、「1億円を狙うかどうか」よりも「準富裕層として逃げ切れるかどうか」を重視しています。

① 1億円よりも、老後キャッシュフローを重視

私の条件(50代・平社員・子どもは高校3年生と中学2年生)で、総資産1億円を狙うにはかなりの無理が必要です。そこで、

  • 年金+取り崩し可能な資産収入で、家賃込みの生活費をカバーできるか

  • 医療・介護費の突発支出に備えた予備資金を確保できるか

といった「老後キャッシュフロー」のほうを優先して考えるようになりました。極端に言えば、9,000万円で安定して逃げ切れるなら、それはそれで勝ちだと割り切っています。

② 生活水準は「今以上に上げない」

準富裕層になってから生活レベルを上げてしまうと、そこから先の資産形成は鈍ります。なので、

  • 外食・旅行は「回数」より「満足度」で考える

  • 車は必要最小限にとどめる、もしくは持たない選択肢も視野に

  • 賃貸更新のたびに家賃を上げない(むしろ下げることも検討)

といったルールを自分に課しています。「今より少し質素なくらいでちょうどいい」と考えるくらいが、準富裕層維持にはちょうど良いと感じています。

③ 教育と健康は“削らない支出”と決めておく

一方で、どれだけ節約しても削りすぎないと決めているのが、

  • 子どもの教育

  • 自分と妻の健康維持

です。教育費は青天井になりがちなので、塾や習い事は「本人の意思」と「費用対効果」で厳選しますが、「最低限ここまでは出す」というラインだけはぶらさないようにしています。健康診断や運動習慣への投資も同じで、ここをケチって老後に医療費が増えたのでは本末転倒だからです。

「階層の壁」をどう捉えるか

準富裕層から富裕層への“階層の壁”は、たしかに存在します。ただ、それを意識しすぎると、

  • 無理なリスクを取りたくなり

  • 仕事や家族関係を犠牲にし

  • かえって資産を減らしてしまう

という危険もあります。

50代サラリーマンの現実としては、

  • 準富裕層というポジションをきちんと守る

  • 老後キャッシュフローがマイナスにならない設計をする

  • 家族が納得できる生活水準を維持する

ことができれば、それだけで十分に“勝ち組”だと私は感じています。

その上で、「どうしても1億円を目指したい」と思うなら、

  • レバレッジではなく、時間と入金力で攻める

  • キャリアや副業など人的資本を強化する

  • 相場に振り回されない長期投資ルールを貫く

といった、再現性の高い方法を選ぶべきでしょう。

資産形成における“階層の壁”は、単なる金額の差ではなく、「心理」と「家計の設計」の差です。自分がどの階層にいて、どこを目指したいのか。一度立ち止まって考えるきっかけになればうれしく思います。

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